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大阪高等裁判所 昭和61年(ネ)2152号 判決 1987年3月31日

控訴人(原告) 株式会社柴田

右代表者代表取締役 柴田俊明

右訴訟代理人弁護士 田中壽秋

被控訴人(被告) 株式会社三津富

右代表者代表取締役 丸山茂司

右訴訟代理人弁護士 駒杵素之

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴人は、「原判決を取り消す。被控訴人は控訴人に対し、九〇〇万円及びこれに対する昭和六〇年四月一六日から支払ずみまで年六分の割合による金員を支払え。訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は主文同旨の判決を求めた。

当事者双方の主張は、次に付加するほかは原判決事実摘示のとおりであるから、これをここに引用する。

(控訴人)

一、甲第一号証(賃貸借契約書)の一〇条一項の定めによれば、賃貸借契約が中途で終了した場合にも建築協力金の据置・分割返還の約定がそのまま維持されるものと解釈することができるかもしれないが、かかる解釈は誤りである。すなわち、右の解釈によれば、賃貸人が賃料の滞納など賃借人の責に帰すべき事由により賃貸借契約を解除した場合、賃借人は賃借物の明渡を求められながら建築協力金の返還を受けることができない、という不利益を受けることになり、他方、賃貸人は賃借人から賃貸物の返還を受けてなお建築協力金を返済しないで、しかも返還を受けた賃貸物をさらに他に賃貸して建築協力金を得るという、賃借人に比して極めて多くの利益を得る立場にあることになり、契約における等価性に反する。また、本件賃貸借契約において、八か月の解約告知期間の定めがあり、しかも、合意解約によって契約が終了したものであるだけでなく、被控訴人は、新たに賃借人から建築協力金を受領しているのであるから、建築協力金の据置、分割返済の約定が本件についても適用されると考えるのは、不当である(名古屋地裁昭和四九年二月一二日金融商事判例四一五号一三頁)。

二、本件建築協力金の据置・分割返済の約定は、建築協力金の贈与を受け、一一年目から一五年間は法定利息程度の利息を支払うのとなんら変らない効果を生じるものである。賃料以外にこのような高額な建築協力金の交付を受けることは、暴利行為として無効というべきであり、また、前記事情を考えれば、権利の濫用として許されない。

(被控訴人)

控訴人の当審における主張は争う。

当事者双方の証拠の関係<省略>

理由

一、当裁判所も、控訴人の本訴請求は理由がないからこれを棄却すべきものと判断するが、その理由は次に付加するほかは原判決理由と同じであるから、これをここに引用する。

二、控訴人は、被控訴人が本件建築協力金を直ちに返還すべきである旨を原審以来重ねて主張するのであるが、本件賃貸借契約書一〇条一、二項の定めによれば、控訴人と被控訴人との間で本件賃貸借契約が合意解除された場合は、本件建築協力金九〇〇万円は店舗引渡日から一〇年間据置き、一五年間均等分割返済の方法で返還する。敷金六〇〇万円は右明渡完了日から三か月後に返還する、と合意されたことが明らかであって、合意解約によって賃貸借が終了した場合における建築協力金の返還時期を定めなかったものとはいえないのである。成立に争いのない乙第一号証、原審証人末綱鋼太郎の証言及び控訴人代表者本人尋問の結果によれば、控訴人は、右条項の記載のある本件賃貸借契約書を理解した上で取り交わしたものといわざるをえないのであって、被控訴人から賃料の増額請求を受けたこと及び業績が不振であったことが原因で本件店舗における営業を打ち切ることとし、被控訴人との間で本件賃貸借契約を合意解除したが、その際、建築協力金の返還について話し合いをしたこともなく、明渡前の昭和五九年一一月一三日に被控訴人宛の「弊社店舗の退去に関する件」と題する書面では、「上記に伴う敷金の返還、施設撤去その他の細目は別途具体的にお打合せの上決定する。」と記載しただけで、本件建築協力金について言及しなかったことを認めることができるのであって、被控訴人が控訴人主張のごとき利益を得ることができ又は現に利益を得たからといって、これが控訴人に対して不当であるとする根拠はなく、本件賃貸借契約上、本件建築協力金につき、被控訴人が予期しない利益を取得し控訴人が予期しない不利益を受ける関係にあるわけのものではないから、これが公序良俗に反し、又は権利濫用に当たるということはできないものというべきである。

控訴人の主張は、採用することができない。

三、よって、これと同旨の原判決は相当であって本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法九五条、八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 今富滋 裁判官 畑郁夫 遠藤賢治)

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